前日譚

2018年度のことについて。



残された在学期間内に卒業するためにはもう失敗は許されなかった。それは分かっていた。しかし、始業前からホール通いが止められず、結局この年はただの一度も授業に出席しなかった。


金が無ければギャンブルはできないが、バイト先とは連絡を断っていた。すでに借入先は無かったが、正当に金を稼ぐ方法など眼中にない私が次に手を出したのは、携帯電話のキャリア決済枠の現金化だった。月10万円の枠でメディアプレイヤーソフトで使用できるカードを購入し、それをメールで送付すると7割程の換金率で現金が振り込まれた。

何らかの法律や規約に違反するであろうがお構いなし。1円の返済もすることなく3カ月で30万円分を現金化してギャンブルに費やした。


この時期には新たに競艇をやり始めた。本当はパチスロを打ちたかったのだが競艇の方が長い時間できるような気がした。自宅から出る必要がないということも楽だった。つまりは当否が決まる瞬間を感じられれば何でもよかったのだろう。連日朝から晩までレースがある限りパソコンの前で賭け続けた。

最初期を除けば、ギャンブルで生活を成り立たせられると考えたことはなかった。私に必要だったのはギャンブル行為によって興奮を摂取し続けることであった。それは賭けの対象がパチスロでも競艇でも一貫していた。


4カ月目についにキャリヤ決済枠が凍結された。こうなると私にできることはいつものように部屋に閉じ籠ることのみだった。このとき食料は盗みによって賄った。ギャンブル依存症の者が行き着く、世間的な善悪とは別次元の思考回路。

深夜バイト先に侵入し、オーブンに火を点ける。生地に好みのトッピングをして焼き上げる。3枚。きれいに後片付けをする。業務用のポテトやチキン、食材やジュース、さらには酒を袋に詰める。それらを抱えて部屋に戻る。食べ尽くしたら再度侵入する。



ある日、父が突入してきた。だが、私は父と会話どころか顔を合わせることもできなかった。父の滞在中、初夏だというのにずっと羽毛布団を被っていた。父は何も言わずにピザの箱が山積みになった部屋を掃除していた。事情を察した父は、バイト先の店長に店の鍵を返却しに行った。そして無言のまま次の日には帰った。


仕入れ先を失った私は、コンビニの廃棄品を盗み出す方法や、体を売る方法、首吊りの方法を検索していた。しかし、いずれも実行に移す気力が無かった。とりあえず断食をすることにした。水以外は口にせず、ゆっくりと衰弱死できればいいと思った。

3日目に数週間分の抗うつ薬を一気に飲んで眠りについた。そのまま永久に目覚めないことを期待したが、数時間後ただ吐き気がするだけであった。

5日目が過ぎ、空腹が我慢できなくなり友人に泣きついた。こんな私にも、いつでも頼れと言ってくれた。玄関先にそっと食事を置いて行ってくれた。その友人は実家に連絡までしてくれた。



人にとっての真理など、その人の精神状態によっていくらでも変化する。

真理とは心理である。

2つ前の論文調記事には前身となるものがあった。それはこの時期に書こうとした遺書で、結局は気力が湧かずに序論で止まってしまった。

―その名も、「人生卒業論文」


厨二くさい。

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